院長コラム

ツベルクリンと国際結婚2017年06月14日

佐世保はアメリカ海軍第7艦隊の軍事基地があり、軍人と家族を会わせて約5,600人あまりが住んでいます。ちなみに、沖縄はこの約8倍の47,000人が住んでいます。

基地のある街ですので、国際結婚も多く3年前のコラムでは「ツベルクリン事情」と題して彼我の相違について記載しました。

今回はその続きです。

この3年の間に国際結婚のための当院外来受診者が100組を超えました。人口激減中のわが国で適齢期の日本人男性がなかなか結婚できない現状の中、妙齢の大和撫子を奪われる悲哀を味わいながらの診察結果を表にしました。

米軍が要求する国際結婚のための検査は梅毒、HIV(エイズの感染の有無)とツベルクリン反応(結核感染の有無)の3つです。世界の文明国の結核罹患率は人口10万人あたり10人以下ですが、日本はまだ100人以上ですので、「中蔓延国」とされています。従って、結核の検査が必要なのです。

男性はアメリカ海軍第7艦隊の軍属ですので、基地の診療所で検査されているものが多いのですが、56名が当院で検査しています。女性は日本女性が最も多く83名、次いでフィリピン18名、韓国3名、中国(含む、香港)4名、米国2名、シンガポールとポーランドが各1名、女性の合計112名(112組)です。

文明国の多くがそうであるように、アメリカでは幼児期のBCG接種はありません。日本は生後5~8ヶ月の間に「はんこ注射」と呼ばれるBCG定期接種があります。

さて、フィリピン、韓国、中国、シンガポール、ポーランドではどうでしょうか? 

どの国も出生後直ちに、あるいは生後4週間以内(韓国)、2ヶ月以内(フィリピン)のBCG接種が義務づけされています。前回にも記載しましたように、わが国のツベルクリンの判定は国際的に広く使われているものとは異なっています。当院では当然米国式を採用していますが、かなりの人数ですので、ここで日米判定の比較表を作ってみました。

健康成人に対しての判定は、米国式では前腕部横径の硬結≧15mmが陽性。陽性者は胸部レントゲン撮影で結核性陰影がないことの証明が必要です。Total:51名が陽性。日本式判定では硬結≧20mmまたは赤発≧40mmが有意(なぜか陽性と云わずに有意の反応というのだそうです)。結果はTotal:23名が陽性となりました。赤発径のほぼ1/2が硬結というデータがあるので、赤発40mm≧を有意としていますが、参考値としての硬結≧20mmのみでみてみると日本人女性では12名が7名に減ります。BCG接種をしない米国人を対象にした硬結≧15mmでは米国人の陽性率は8.9%程度であるのに、この基準をBCG接種歴がある国の女性群に当てはめると40%程度と極めて高くなります。陽性者全員がレントゲン所見で異常はありませんでしたので、結論から述べると日本を含めBCG接種歴がある国のツベルクリン陽性(有意)基準は硬結≧20mmのみとした方が彼我の陽性率もほぼ同率となり、赤発≧40mmの項目は必要ないと思われます。

なお、日本では結核の診断には現在ツベルクリン反応は使用されず、3年前にも記載しましたように、QFTやT-SPOTのようなインターフェロンγ遊離試験(IGRA検査)が用いられています。しかし、ツベルクリン反応は国際的にはまだまだ結核の補助診断として用いられていますので、わが国の判定基準(2006年)も再度見直す必要があるのではないかと思います。

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○ 国際結婚~余話~

韓国には米軍基地がありますが、フィリピンは15年前になくなっているのに、どうして多くの女性が日本に来ているのでしょうか? 詳細は不明ですが、米軍男性の中にはフィリピン人が入隊して米国国籍となった人がいることもその一因のようです。では、米軍男性と日本人女性との出会いの場所はどこでしょう。佐世保市内と博多区内の決まったお店が多いようです。従って、二鶴堂の博多土産と同じ「博多の女(ひと)」も多いようです。

軍人男性の平均年齢は27.3歳、日本女性は24.5歳、日本人の初婚年齢を見ると、2015年で男性31.1歳、女性29.4歳で、これに比べると男女ともかなりの若さです。32年前の1985年の日本男性の初婚年齢は28.0歳、女性25.6歳なので、これよりまだまだ若い。男性の27歳は40年前の1977年頃、女性の24歳は60年前の1956年頃の日本の初婚水準です。軍人が若いのはわかりますが、現在の日本人女性が若くして連れ去られている??のはいかにも残念。

女性の生涯出産率は当然若いほど大きい。男は子供を生めないので、29.4歳という年齢の初産婦でも頑張ってもらわなければなりませんが、2015年発表のわが国の出産率は1.42と2.0以下で、しかも死亡率が出生率を上回っている状態。このような国は日本、ドイツ、イタリアしかなく、それ以外の文明国はまだまだ出生率が死亡率を上回っています。

日本は滅び行く国なのか? 

軍人さんと結婚する若い女性を見ると、大変スマートで理知的な女性が多い。

これも残念な要素の一つではあるが、国際結婚でいい面もたくさんある。アメリカ・プロゴルファーのリッキー・ファウラーはミドルネームが「ユタカ」で母方の祖父が日系2世とのこと、日本人の血が少しでも流れていると思えば、応援にも力がこもる。2016年のフェニックス・オープンでは松山英樹とのプレーオフの激戦を堪能させて頂いた。また、フィギュアスケートやその他のスポーツ選手でも日系人の活躍は多い。国際交流が盛んな中、彼女たちに多くの2世誕生を期待して、これからの国際交流貢献に大いに期待したいところでもある。

 

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