院長コラム

デング熱考2015年05月23日

そろそろ庭いじりでもヤブ蚊に刺される季節となりました。

昨年夏突然東京の代々木公園を中心にみられた国内発生のデング熱は今年も流行するとみて東京都はすでに都内の9つの公園での蚊の採取と側溝などへの薬剤投入を始めています。また、厚労省も今年各都道府県に対して公園などにおける蚊の駆除や蚊の発生防止対策の指針をまとめました。

昨年の感染者は162名と報告されていますが、診断されなかった患者はこの数倍いたのではないかと報道されています。それにしても、70年振りの発生と大騒ぎされましたが、これは昨年だけの特別な話ではないようで、70年もの間、デング熱の国内発生はないと言い続けてきた専門家も恥ずかしい限りでした。今となっては最近の10年間にしても毎年100人以上は感染者が出ていたと考えられますが、その間1例も診断されなかったことも驚きです。しかも、舞台は日本の首都・東京です。

今回の一連の発生で東京から外国への輸出例も3例見られています。いずれも外国人で代々木公園を訪れています。実は一昨年ドイツ人旅行者が日本から帰国後デング熱を発症しており、その前にも日本で感染したと思われる報告やデング熱流行地域から毎年8万人もの旅行者が日本を訪れ、その中には入国後デング熱を発症した事例も報告されており、厚労省など国の機関がもう少しこれらの情報を真摯に受け止めていたら、昨年の寝耳に水と言ったあれほどの大騒ぎにはならなかったと思われます。

デング熱を媒介するヒトスジシマカは青森以南の地域に広く分布している昼間吸血性のヤブ蚊である。1942~1945年にかけて長崎、佐世保でも大流行があり、この時微生物担当の堀田進医師(後、神戸大学微生物学教授)が世界で初めてデング熱ウイルスの分離に成功されたことはわが国の誇りとして教えられていました。

それはさておき、この蚊が媒介する感染症はデング熱だけでしょうか?

ウエストナイル熱、チクングニヤ熱あるいはジカ熱(Zika fever)など耳慣れない感染症はヒトスジシマ蚊も媒介蚊であり、わが国への帰国者にすでに見られています。デング熱の最近数年間の輸入感染例は100~300例にも及びますので、それほどではないとしても今後関係当局はこれらのまれな感染症の発生にも細心の注意が必要と思われます。

これらの感染症はいずれも特効薬もワクチンもありません。幸い、わが国の武田薬品工業がデング熱に対するワクチンを開発中で、今年中に最終治験が欧米でなされるようであります。今のところ日本国内発生のデング熱はワクチンを打つほどの症例数ではないので、東南アジアやアフリカなどが中心に使用されるのでしょうが、私たちとしてはこれらのウイルスに有効な薬剤の開発が切に待たれるところです。
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